グラン・クリュとプルミエ・クリュ
シャンパーニュを語るとき、よく耳にするのが「グラン・クリュ」と「プルミエ・クリュ」という2つのキーワードだ。聞きなれてはいるけれど、細かな違いまではわからないという読者も多いだろう。
「クリュ」とは、一般的に畑を意味するフランス語だ。だが、シャンパーニュ地方においては、どんな意味を持ち、どのように区別されているのだろうか。その疑問点、本稿で一挙解消していただきたい。
シャンパーニュの原産地統制名称(AOC)は、1927年制定の法律で定められた総面積3万4000ヘクタールの生産地域にある。ブドウ栽培地は大きく4つのエリアに分かれている。
まずは、北のランスから南のエペルネにある小高い丘陵地。その丘の北から東、南に続くゾーンが「モンターニュ・ド・ランス」(Montagne de Reims ランス山の意)。
次に、マルヌ川沿いの谷間、エペルネから西に広がる「ヴァレ・ド・ラ・マルヌ」(Vallée de la Marne マルヌ渓谷)。
さらにエペルネの南、東向きの斜面に連なるのが「コート・デ・ブラン」(Côte des Blancs)である。
以上3つのエリアから南に離れているのが、オーブ県に属する「コート・デ・バール」(Côte des Bar)。こちらはヨンヌ県に接し、ブルゴーニュを代表する生産地シャブリとも近い位置関係にある。シャンパーニュ地方の一部として認められたのが1911年ではあるが、近年注目度が高まっている地である。
モンターニュ・ド・ランスは、最良のピノ・ノワールの生産地のひとつとして名高い。ヴァレ・ド・ラ・マルヌが得意とするのは、気候条件ゆえにムニエ。そして、その名が物語るようにコート・デ・ブランは、白ブドウであるシャルドネの聖地として世界的に知られている。もっとも南に位置するコート・デ・バールは、おもにピノ・ノワールが栽培されている。
シャンパーニュ地方には319の市町村が存在し、それらが「クリュ」と呼ばれている。
同地方のブドウはかつて、栽培農家とメゾンの間で年ごとに決められる公定価格をもとにして取引が行われていた。村ごとに80〜100%の格付けが存在し、公定価格にこのパーセンテージを乗じた数字が、その村で収穫されたブドウの売買価格とされていたのだ。満額である100%の村が「グラン・クリュ」、99〜90%の村が「プルミエ・クリュ」である。
ちなみに、グラン・クリュの数は17、プルミエ・クリュは44。グラン・クリュのブドウのみを使用したシャンパーニュには、ラベルに「グラン・クリュ」と表記されることが認められており、公定価格の制度が廃止された今でも、これらの呼称が残っている。
つまり、シャンパーニュ地方では栽培地域の単位を村(クリュ)としており、それぞれにランクが存在するという訳だ。ラベルに「グラン・クリュ」の表記があるのは、シャンパーニュとしてのステイタスなのだ。
いっぽう、近年では独自の理論でビオディナミ栽培を実践したり、ブルゴーニュ発想で区画・品種・ヴィンテージ単一でシャンパーニュを造る個性的な小規模生産者も多数登場し、すでに地位を築いている。
格付けではなく、造り手の唯一無二の個性が高評価のポイントとなっているため、すでに格付け=価格とは言い切れない。歴史的に不動の名声を持つシャンパーニュ地方においても、何を最良とするかの価値基準は日々多様化を増しているのだ。
とはいえ、飲み手としてもっとも気になるのが、味わいと価格のバランスではないだろうか。
もし見ず知らずのシャンパーニュと出合ったなら、その味わいを予測する一つの目安として本項でご紹介した「グラン・クリュ」と「プルミエ・クリュ」の違いを少しだけ思い出してみて欲しい。
NVとヴィンテージとプレステージ
シャンパーニュのリストで見られるNVとは、ノン・ヴィンテージの略。通常、ワインのラベルにはブドウの収穫年が明記されている。だが、近年温暖化の影響を受けているとはいえ、ブドウ栽培北限の地と言われるシャンパーニュ地方において、作柄に左右されずに一定のクオリティを維持するのは難しい。だから複数年のヴィンテージをアッサンブラージュして造られているのがノン・ヴィンテージのアイテムである。
各メゾンがブランドイメージを体現すべく、巧みなブレンド技術を尽くしてリリースするため、メゾンの個性を理解するにはノン・ヴィンテージがベストと支持するコアなシャンパーニュ通も多い。
いっぽうで、作柄の良い年にのみ造られ、ボトルにヴィンテージを記載しているのが「ヴィンテージ・シャンパーニュ」。さらに、特に優れたブドウをしたものが「プレステージ」。メゾンの顔ならNV、最良の作柄の個性を堪能したければプレステージを選ぶべし!