「世界の“どこか”に合わせるより、ブドウを信じる」。
滋賀は米もうまい。新潟や東北が米どころとして名を馳せる前、滋賀産は有名だったんですよ。ワイナリーの責任者・取締役の岩谷澄人さんは青森の出身ですが、「滋賀の米を食べたら、よその米なんて食べられません」。その通り!
ヒトミワイナリーは、私の父の実家のすぐ近く。ワイナリーのそばの永源寺とか、子供の頃に行きました。祖父はここで農業をしていたので、琵琶湖東岸のテロワールの味は無意識にも自分の一部になっているみたいです。
琵琶湖ワイナリーもそうですが、とにかく太くて厚い味です。パワーがあります。このエリアはかつては交通の要所で(だから信長は安土城を築いたのですが)、いろいろな人たちが集まってきたからか、よく言われる「日本的な」閉鎖的繊細さとは違う。もっと寛大で、気宇壮大な、マクロ的にガシッと全体をつかまえる味だと思います。
だからヒトミワイナリーを有名にした一連のデラウェアのワインは、確かにデラウェアのもつポテンシャルと多面性を最大に生かした革命的な作品ですし、岩谷さんのラブルスカ品種にかける情熱とその成果はそれだけで一大ストーリーになるわけですが、関東人のわれわれゆえ、今回はとにかく西日本を追求しようという試みです。
そう言えるのも、長浜今荘のブドウを使った身土不二シリーズや、自家農園のKafka可不可のすごさを知ってしまったから。「おいしい」などという言葉では足りない、魂を揺さぶるようなエネルギー感。当然のことながら、これらの畑に除草剤は使われておらず、特に自家農園は無農薬栽培に近づけるべく努力しています。
そして、野性酵母発酵、無清澄無濾過、生詰め。そこで初めて、土地の本当の力が表現される。これこそが滋賀のワイナリーが責任を持って表現せねばならぬ滋賀の味です。
身土不二シリーズ最高傑作は、江戸時代に焼かれた信楽の茶壺で発酵したTsubo。飲んで身震いしましたよ、これは。信じがたくピュアでいて深く、やわらかくも強く、悠然と構えて滔々と流れるが如し。
自然農園ならではの気合が感じられるKafka可不可カベルネ・ファミリー。カベルネー・サントリー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランの混醸です。これこそ、雄大なスケールと緻密な優しさを兼ね備えた、日本のカベルネ系ワインの最高傑作のひとつと申し上げても過言ではありません。
周囲の環境に恐ろしく敏感に反応するワインですが、それはすなわち本物の生きたワインだからです。