ギマラエスの修道院ホテル
小型バスに再び乗り込んだ私たちは、揺れて揺られて小一時間。ミーニョ地方めぐりのバスは走る。窓に広がる緑の大地。一路東へとおよそ50km内陸へと走る。私はランチテイスティングでお腹いっぱい、バスのなかで夢心地で、いったい自分がどこいらあたりにいるのか、定かではなかった。
バスはユネスコの世界遺産に指定されている中世の街ギマラエス(またはギマランイシュ Guimarães)を目指していた。ポルトガル北西部の観光の目玉にして、ポルトガル発祥の地である。ということは後から知った。でもって、バスはどこをどう走ったのか、丘をどんどん登り始め、12世紀に建てられた修道院の建物を改装したホテルにチェックインしたのだった。
それから再びバスに乗って、山の中の一般道をえんやこら走ること、ホテルからおよそ30km弱。
すると突然、銀色のタンクがいくつか並ぶワイナリーが出現した。それがヴィーニョス・ノルテだった。
こちらはWINE-WHAT!?の前回2017年のレポートでも登場している。設立は1971年で、現在はオーナー・ファミリーの3代目が新しいチャレンジを、と世界市場への進出プロジェクトを担っている。
テイスティングルームで案内されると、早速ワインの試飲が始まった。プレゼンを担当したのは、輸出の責任者のセリーヌ・オリヴェイラ(Celine Oliveira)さん。一部画像は、プレゼンで使われた小冊子から流用させていただいている。
現在、白、赤、ロゼにスパークリングをつくっている。自社生産のためのブドウ園を100ヘクタール持っていて、白用には主にロウレイロを、赤用には主にヴィニャオンをつくっている。
もちろんヴィーニョ・ヴェルデは白の生産量が圧倒的に多いから、彼らにとっていちばん重要なのはロウレイロ、ということになる。
彼らが日本への輸出を始めたのは5年前からで、いまのところ輸出先のトップ10に顔を出していないものの、最も成長しているマーケットだという。ヴィーニョ・ヴェルデはフード・フレンドリーだし、そもそも日本とポルトガルは歴史的なつながりがある。とセリーヌさんは言った。天ぷら、カステラ、金平糖、パンなどがポルトガル語由来である、という話を随所で通訳のアキさんがしていた。
で、2011年に輸出用としてつくり始めたのがノルテで、ホントは4種類あるけれど、紹介されたのは日本の輸入業者が選んだ2種類のみ。それがこちらで(小冊子用にはなぜか3種類あった)、いずれも1200円とお求めやすい価格だ。
白(画像左端)は、アリントとロウレイロとトラジャドゥーラのブレンドで、アルコール度は9度(±0.5度)、糖は3g/dm3、酸は6.0〜6.5g/dm3。ランチでテイスティングした白に比べると、アルコール度数はちょっと高いかという程度で、糖が少ない。微発泡なことは同じで、発泡だと糖が多かろうが少なかろうが関係ないのかも、というのが個人的な感想で、つまりヴィーニョ・ヴェルデらしくスカッとさわやかである。
ロゼ(画像真ん中)は、赤用品種のボハサルとパデイロのブレンドで、色が濁らないように軽く圧搾するだけ。マセレーションはしない。ただ、絞って落ちてくる果汁を使う。こちらも微発泡でアルコール度等は白と同じ。糖度も同じなのに、甘い香りがする。これこそブドウのもつ力だろう。
ボハサルは全地域で栽培されていて、バランスのとれた、風味豊かで、ルビーレッド色をした、ブドウのもつアロマの特徴を表したワインが生まれる。酸味が多く含まれるのも特徴だ。一方のパデイロは、ヴィーニョス・ノルテの畑がある内陸のバシュト地域(サブ・リージョン)で栽培されている固有品種で、ヴィニャオンのように糖分を多く含み、これまた、調和のとれた風味豊かなブドウのアロマとフレーバーの特徴があるとされている。
3本目のタパダ・ドス・モンジェス ロウレイロは彼らの自信作。
ロウレイロ100%で、しっかりしたエレガントなワインに仕立てた。リンゴの花の香りが口の中で広がる。ガスは少ないけれど、これにも入っている。アルコール度は12.5度(±0.5度)、糖は6g/dm3、酸は6.0〜7.0g/dm3。甘ったるく感じないように酸味を強くしている。
同じシリーズのアリント100%、アザール100%も登場した。アリントもアザールも、扱いにくい品種だけれど、とりわけアザールがむずかしい。葉っぱが多くてブドウの房がギューっとつまっているので病気になりやすいという。
でもって、アザールはバシュト地域でそのポテンシャルを最大限に発揮するとされている。アザールからつくられるワインは、レモンと青リンゴのアロマと爽やかなフレーバーを特徴とする。
こちらのアザール100%は、アルコール度が12度(±0.5度)、糖が<4.5g/dm3、酸が6.5〜7.5g/dm3で、酸味がきいている。芳醇な香りが口中に広がり、シーフード、とりわけカキと合う、とセリーヌさん。カキとレモンとの相性のよさから想像するに、きっと、そういうことなのだろう。「個性が強くて、私は大好きです」とセリーヌさんは付け加えた。タパダ・ドス・モンジェス(Tapada dos Monges=「僧侶によって冠された」)のシリーズはすべて各1600円。
フィリグラーナのラベルのレゼルヴァ
試飲のシメは、Varzea do Minho Reserva 2011という名前の赤で、ラベルにこの地方の名産品の金細工の装飾品フィリグラーナの画像が付いている。
ハート模様で知られるフィリグラーナは幸運のお守りだそうで、シャロン・ストーンが有名にしたのだという。シャロン・ストーンといえばエロチック・サスペンスの傑作『氷の微笑』、よかったですねー。『氷の微笑』にも出ていたのでしょうか。また観ないとなー。
オホン。つまり、金細工の宝飾品をラベルにまとっているわけだから、一見して、プレミアムである。日本での価格は2500円。ヴィーニョ・ヴェルデのスタンダードの、ざっと2倍だ。
トウリーガ・ナシオナル100%の単一品種で、アルコール度は14度(±0/5度)と高く、糖は5g/dm3、酸も5.0〜6.0g/dm3と控えめ。グレート・イヤーとされる2011年ヴィンテージで、若飲みのはずのヴィーニョ・ヴェルデなのに7年も熟成している。口に含めば、タンニンが強く、渋さが口中に残る。ストラクチャーがしっかりしたフルボディで、これまでテイスティングしてきたヴィーニョ・ヴェルデとは一線を画している。
ヴィーニョス・ノルテも、ヴィーニョ・ヴェルデらしいヴィーニョ・ヴェルデをつくる一方で、ヴィーニョ・ヴェルデらしからぬ赤ワインをつくっているのだ。
テイスティングのあと、山をちょっと下った。こんな山の中にレストランがあるのか、というようなところで、そこは「Piovácora Parque de Pesca」という名前の釣り堀だった。ペスカが「釣り」で、パルクが「公園」である。その釣り堀のなかのレストランに案内されたのだった。
こちらで、マスだと思うのですが、川魚料理をヴィーニョス・ノルテのヴィーニョ・ヴェルデとのペアリングで楽しんだ。テレビがつきっぱなしで、どうやらナチスと原爆計画みたいな番組をやっているようで、それがちょっと気になったことは余談である。最後にカステラみたいなデザートが出て、ヴィーニョス・ノルテのMiogo Reserva Bruto 2007というスパークリングのシリーズの白が出てきた。
こちらはアリントとロウレイロのブレンドで、アルコール度は12度、糖は5g/dm3、酸は6.0〜6.5g/dm3である。ものすごく大雑把にいうと微発泡のヴィーミョ・ヴェルデのもっと泡がシュワシュワ版 で、スッキリ感がいっそう強い。日本未輸入のようだけれど、絶対ウケるに違いない。
というように、ポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデ産地ツアー初日は、ヴィーニョ・ヴェルデのスパークリングで始まり、ヴィーニョ・ヴェルデのスパークリングで更けていった。
微発泡だけじゃない。ヴィーニョ・ヴェルデの鮮烈な泡が私をシュワシュワと包んでいった。
つづく