オーストラリアと日本のフュージョン料理コンテスト
「2回目となる今回は、1回目に比べて驚くほどレベルが上がっている。シェフたちが、オールトラリアの食文化や食材の理解が進んでいることがわかる。ジャッジするのがとても大変だった」と語るのは、今回の審査委員長、坂井宏行氏。同じく審査委員の陳建一氏とモダン和食の山下春幸氏も、そのレベルの高さに言及していた。
コンテストの内容は、オーストラリア産食材を豊富に使用し、1)前菜 2)メイン 3)デザートのすべてに「和」の要素を表現したオリジナルメニューを開発し、同時にそれぞれの料理に合うオーストラリア産の飲料(例:ワインやジンなどのアルコールやジュースなどのソフトドリンク)を提案する、と言うもの。次世代を担うシェフ・ソムリエなど、外食産業に従事をされている方々構成するチームでの参加が原則。1チームは、最大3名までで、2017年12月31日時点で35歳未満の人が参加できる。審査員は、鉄人シェフとして知られるフレンチの坂井宏行氏、中華の陳建一氏、モダン和食の山下春幸氏。
優勝は、東京・銀座のビストロ・ワインバー
「22<トゥ・トゥ>」
最優秀賞を受賞した「22(トゥ・トゥ)チーム。左から、駐日オーストラリア大使リチャード・コート氏、飯久保孝行氏、高橋亮介氏、内山拓弥氏。
そんな激戦を制したのは、東京・銀座のビストロ「22<トゥ・トゥ>」。飯久保孝行氏、高橋亮介氏、内山拓弥氏の3人で最優秀賞の栄冠を勝ち取った。
決勝には10チームが残り、そのうち5チームが賞を獲得。
各賞受賞者は、以下の通り。
最優秀賞:22<トゥ・トゥ>(飯久保孝行氏、高橋亮介氏、内山拓弥氏)
Best Aussie Beef or Lamb 賞:ホテルオークラ神戸 カメリア(正徳陽樹氏、藤本雅氏、河西知子氏)
オーストラリア食材と和のベストマッチ賞:京都タワーホテル(川﨑敬太郎氏、後藤武史氏、中村澄志氏)
ベスト・オーストラリア フレッシュ/ユニーク食材賞:リーガロイヤルホテル オールデイダイニング リモネ(永井尚樹氏、新井航平氏、有馬 佳宏氏)
料理と飲料のベストペアリング賞:リーガロイヤルホテル ベラコスタ(蓑島裕和氏、岩坪美里氏、松葉由美氏)
優勝チームの料理は、クリエイティビティ溢れる和モダン
最優秀賞の「22<トゥ・トゥ>」チームの料理は、実にユニークだ。和と豪の食文化を融合するだけでなく、そこに新しい感性を加えている。遊び心のあるサプライズ要素も各料理に込めている。総括で審査員の陳建一氏も言っていたが、料理を、コンテストを一番楽しんでいたのがこのチームかもしれない。
前菜の「cape grimbar (ケープ グリムバー)」は、醤油漬けにしたフォアグラのアイスをタスマニアのケープグリムビーフで作ったブレオザラ(生ハム)で巻いた料理。通常でも品質の高いタスマニア・ビーフの中でも、別格のグレードを誇るブランドとして、ケープグリムビーフは、評価を高めている。
美味しさだけでなく、牧草の品質を吟味し、ホルモン剤や抗生物質を使用しない安全性の高さにもこだわる。タスマニアの世界で最もきれいな空気と水で育った牧草で育てたナチュラルビーフなのだ。
そして、この料理に合わせたのが南オーストラリアの「デューンズ&グリーン」のロゼ、「モスカート・スプリット・ピック」。ノンヴィンテージだが、果実味豊か。軽やかでフレッシュな味わいだが、余韻に活き活きとした優しい甘みが残る逸品だ。
メインディッシュは、「タスマンブイヤベース」。これは具材にタスマニアを中心としたオーストラリア産のシーフードを使い、スープに日本の魚介を使うという、まさに和豪の特徴を生かしたコラボ。オーストラリアが、日本とは逆の季節だからこそ、この融合は面白くなる。まさに「海の宝石箱や〜」と叫びたくなるメニューだ。
オーストラリアの美味しいシーフードに和風だしスープを合わせたブイヤベースにペアリングしたのは、オーストラリアのシラーズ。しかも日本人の木村滋久氏がワインメーカーを務める「オーバー・ザ・レインボー・亜硫酸無添加・シラーズ」を持ってきた。和豪の合わせ技が作り出したワイン、言い換えれば、シラーズというオーストラリアを代表するブドウに和風だしを効かせたワインだ。なるほど、遊び心を楽しんでいるなぁと、思わず笑顔になってしまった。
デザートは、アーモンドーフ。ネーミングでもオーストラリアと日本が融合した。そう、アーモンドと豆腐だ。
オーストラリアのアーモンド生産量は、アメリカに次いで世界第2位。そのオーストラリア産アーミンドをミルクにして、葛粉とタピオカでブランマージュにした。
日本で好まれる モチモチとした食感や舌触りに仕上げ、見た目のシンプルさは豆腐のようだ。上品な甘さゼリーやブランマンジェとは一線を画する新しい感覚のデザートだ。それをアーモンドプードル(アーモンドをパウダー状にしたもの)とオーストラリア産ポートワインを煮詰めたタレを添えている。
そしてデザートには、ワインでなくコーヒーをペアリング。オーストラリア産(マウンテントップ・エステート)のコーヒー豆を、浅煎りと深煎り2:1の割合で合わせ、金属のフィルターで濾すフレンチプレスという手法で淹れたコーヒーだ。脂分まで抽出できるので、コーヒー本来の美味しさを味わえる淹れ方なのだそうだ。
サプライズが満載の、斬新で繊細な料理は、感動的でさえある。そして日本とオーストラリアのいいところをよく考えて、合わせている。そして、見るものを、食べるものを楽しくさせる遊び心。まさに最優秀にふさわしい料理、そしてペアリングだと思う。
気になるペアリング賞は、リーガロイヤルホテル ベラコスタ
ワインホワット!?としては、やっぱりペアリング賞も気になる。そこで、リーガロイヤルホテル ベラコスタチームにも取材をした。オーストラリアの食材をベースに、いかに和の要素を取り入れるかを考えるのは、難しかったが楽しくもあったそうだ。基本的にはリーガロイヤルホテルのダイニング、ベラコスタで学んだ洋食の技術を生かし、見た目は和の繊細な盛り付けを取り入れた料理に仕上がっているのが特徴だ。
特に、前菜の盛り付けの美しさには目を見張った。「ローストキャロブ香るオーストラリアタイガーとタスマニアサーモン、アワビの土佐酢マリネ レモンマートル風味〜秋のイメージ〜」と言う料理名の通り、秋の紅葉をイメージした仕上がり。
オーストラリアタイガー(エビ)とタスマニアサーモンの赤色と、レモンの黄色の美しさを際立てるため、透明なお皿を2枚重ね、その間に本物の紅葉を挟んだ。秋の日本庭園を散策しているようだ。
ペアリングしたワインは、タスマニアのスパークリングワイン「クローヴァーヒル・ブリュット 2012」。炭酸は強めだが、クリーミーな舌触りで、研ぎ澄まされた酸味の奥に甘味と旨味がある。複雑な味わいで深みがあるスパークリングが、さまざまな魚介を一皿に持ったこの料理全体をまとめてくれる。なるほど、クローヴァーヒルの泡がこの料理を完成させてくれる。まさにペアリングだ。
メインは「お茶漬け風ソルトブッシュラムとその煮込み入り最中/フリーカ、赤ワイン風味の昆布の佃煮のアクセント」。ソルトブッシュ(ミネラル豊富な草)を食べて育ったオーストラリア産ラム肉を、フリーカ(焙煎したデュラム小麦)の上に載せ、ラム肉でとった出汁を注いでお茶漬けのようにして食べる。
フリーカがいわばご飯の代わり。トマトやレーズンで煮込んだラム肉を挟んだ最中を付け合せにした。ユニークな料理だ。出汁をかける前と後の、味わいや食感の変化が楽しい。
このユニークなラム料理に合わせたのは、ラム肉には鉄板の組み合わせとも言える赤ではなく白。南オーストラリアの「ジョン デュヴァル ワインズ」が、ローヌ品種を組み合わせて造った名品「レキサス マルサンヌ ルーサンヌ ヴィオニエ」だ。柑橘系の爽やかなアロマにほどよく厚みがあり、滑らかな口当たり。マンダリンオレンジや洋なし、フェンネルなどアジアのスパイスのニュアンスもある。バランスのとれた豊かなミネラル感が、和テイストに料理されたラム肉を引き立てる。素材の味を生かすペアリングになっている。
デザートは、「オペラハウスに見立てたマンゴー、チョコレート、マカダミアナッツ入り金胡麻香るクリームチーズの和菓子仕立て」。シドニーのオペラハウスをモデルにしたというオーストラリア風の見た目に対して、牛皮や甘酒を使ったり、味わいは和の要素を重視。
和菓子のような味わいに仕上げた。黒糖のような味がするというオーストラリアのチョコレートも和菓子テイストを高めている。もちろん、マンゴーやマカダミアナッツなどオーストラリアの名産もふんだんに使っている。
このチームは、デザートにもワインを合わせてきた。貴腐ワインの「デ・ボルトリ ブラック ノーブル」だ。豊かなレーズン、コーヒー、オレンジの皮、キャラメルのような風味と、クリーミーな口当たりが特徴。溶け込んだバニラの風味が複雑味を与え、貴腐ワインらしい焦げた甘い風味と共にリッチな余韻が続く。チョコレートなどコクのあるデザートにはよく合う。このデザートには、おそらくぴったりだ。
奇をてらうのではなく、王道を少しだけひねったところに落とし所を持ってきているのが、ペアリング賞の所以か。料理と補完しあうように、あるいは共鳴しあうように、考えられている。
ペアリング賞のリーガロイヤルホテルベラコスタチーム。左から、審査委員長の坂井宏行氏、島裕和氏、岩坪美里氏、松葉由美氏。
どのチームも、和とオーストラリアを重ねて複雑にすることなく、シンプルに素材を生かす方向へ向かっているように思う。日本もオーストラリアも自然を愛し、食材そのものの美味しさを重要視する点は共通している。だからこそ、TASTE OF AUSTRALIA(オーストラリアの味)は、和食との相性が抜群なのだ。