フレンチ懐石 広尾おくむらにて
全国各地から五穀・蔬菜・果実の実りの便りが続々と届く秋。美味しい食事とワインのペアリングを楽しむ機会も多いなか、ダオンワイン協会主催によるフレンチ懐石 広尾おくむらにて、和食とポルトガルワインの饗宴ディナーが行われました。
このディナーをリードするエデュケーターは別府岳則氏。日本におけるポルトガルワインの第一人者です。来日したダオンワイン委員会役員であるルイ・リベイロ氏との会話を交えながらの説明はわかりやすく、ポルトガルワインのなかでもまだ知られざるダオンワインについて見識を深める会となりました。
「ポルトガルワインは和食とあう。和食との共通点が多いポルトガルの食文化のなかで発展してきたポルトガルワインが和食とあわないことはない」
ディナーは別府氏のこんな言葉で始まりました。
ポルトガルといえば、子どもの頃に歴史で習った種子島への鉄砲伝来に始まり、イエズス会の宣教師たちの献身により日本各地にキリスト教とともにポルトガル文化が庶民にまで浸透していったことは周知の事実です。
宣教師が外套として身に着けていたcapa(カッパ)は合羽としてレインコートを、服などを布を留めるボタンはbotão(ボタオ)から、子供を背中に「おんぶ」することはポルトガル語で肩を意味するombro(オンブロ)から、食べ物では砂糖菓子のconfeito(コンフェイト)から金平糖、そして「味付けをする」という意味を持つtemperarから天ぷらが伝わったという話はわたしたち日本人にはお馴染みです(語源には諸説あります)。
ヨーロッパで最も米の消費量が多く、日本同様に、資料によっては日本よりも多く魚介類を消費するポルトガルの食文化は400年以上わたってわたしたち日本の食文化に浸透しています。つまり、ポルトガルがルーツとされる和食はポルトガルワインと相性がいい、というのは至極当たり前のことだということに気付かされました。
エレガントにして繊細、熟成ポテンシャルもある
ポルトガルワインと聞いて、真っ先に思い浮かべるワインというとポートワイン? それともヴィーニョ・ヴェルデ? 最近ではよく耳にする地域のワインに生産量では及ばないダオンワインですが、そのキャラクターはエレガントにして繊細。熟成ポテンシャルも持ちあわせるその特異なワインは気候風土も魅力のひとつとなっています。
ポルトガル中央よりもやや北寄り内陸に広がるワイン産地、ダオン地方はポルトガル本土最高峰を誇るセーラ・ダ・エストレーラ(=星の山脈)を擁す、周囲を山に囲まれたすり鉢状とも言える産地形状のおかげで、大西洋側からの雨や大陸性の冷たい風から守られています。ブドウ栽培地はおおよそ標高400〜500m、高いところでは800mにおよぶところもあり、これは平地よりも気温が低いことを表します。
年間の降雨量は1200〜1300㎜と少なくはないものの、その80%が10月から4月で、ブドウの実の成熟期には乾燥しているなど、気候条件がブドウ栽培に適していることがわかります。
花崗岩から構成される土壌ではポルトガル固有のブドウ品種トゥーリガ・ナショナルやエンクルザードなどが植えられ、穏やかでバランスのよい、アロマが備わったワインができると言われています。
実際に食事といただいてみると、素材が持つ五味(塩味、甘味、酸味、苦味、旨み)を覆い隠すことなく、お互いが調和を奏でさらに余韻を残し、実に心地よいもので、最後には満腹なはずなのに膨満を感じず、といって物足りなさもない、充足した食事と時間を楽しむことができました。
次回ワインを選ぶ機会には、ポルトガルの固有品種トゥーリガ・ナショナルやエンクルザードなど個性豊かなワインを選んでみようと思います。