女性一人で切り盛りするワイナリー
静かな微笑の人というのが私がElisabettaに抱いた第一印象でした。
2018年の1月から通っていたイタリアソムリエ協会主催のデジタルワインマーケティングコース(顛末は過去記事参照「日本人初!
デジタルワインマーケティングコース修了」)での仮想ワイナリーを企画するというグループ学習では怒号も飛びかうような侃侃諤々の議論が繰り広げられました。
そんな中、常に冷静沈着に議論を遠巻きに眺めながら、必要な時には専門家としての理知的な提案をする彼女は皆から一目置かれていました。聞けばマレンマ地方で一人でワイナリーを切り盛りしているとのこと。早速意気投合し6月に訪問してきました。
花が咲き乱れ蜂も舞い地上の楽園のようなブドウ畑
ローマから海沿いの路線を北上すること約2時間半、トスカーナと言ってもフィレンツェ等の内陸部ではなくティレニア海側のGrosetto駅で下車しました。そこからElisabettaの車で山側に向かうこと30分のなだらかな丘陵地帯にワイナリーAzienda Vitivinicola Poggio la Luna(https://poggiolaluna.it/)はありました。
有名な野外温泉サトゥルニアは車で20分の距離です。まずはロバのピッポに挨拶して、エサをやってからブドウ畑を散策。養蜂所も営んでいるのでブドウ畑の隣には花畑があり、初夏の野花で埋めつくされています。蜂のためにも人間のためにも畑では化学肥料、除草剤は使用していません。
「今度ワインのエチケットに蜂のイラストをつけようと思うのよ。蜂も大好きなブドウってわかるでしょ」とお茶目なアイデアを話すElisabetta。ブドウ畑の栽培から醸造、養蜂まで繁忙期には息子さん達の手伝いもあるけど、基本的には一人で何でもこなすとのこと。男社会と言われるワイナリー業界で、設立当初は苦労もあったらしいが今は地元の人たちとも馴染んできたと涼やかに言う。いったいこの華奢な身体のどこにそんなエネルギーがあるのだろうと思ってしまう。
続いて醸造所内を見学しました。ワイナリーの名前にもなっているLUNA=月がモチーフの看板が掛けられた弁柄色した建物が、初夏のブドウ畑の緑と鮮やかなコントラストを描いています。こじんまりとして、隅々まで片付いた醸造所は心地よい空間でした。
「料理はそんなに得意じゃないから簡単なものだけど、、」と謙遜しながらもテラスのテーブルにお手製のサラダやフムス、チーズやハム、そして夢にまで見た蜂の巣ごとの自家製採れたて蜂蜜を運んでランチタイムを始めました。
初夏の陽光を浴びながらランチ
乾杯は代表作L’UNA VERMENTINO TOSCANA IGT。
Vermentino100%の白ワインは白い花の香りが華やかだが、酸がそれをまとめていてフルーティー過ぎない爽やかな印象。まさに初夏に緑の風を感じながら屋外で飲むのにちょうどいい。昔海だった地質だから豊富なミネラルを感じるが、キシキシ引っかかることはなくあくまでも喉ごしは滑らか。
続いてイタリアの代表品種Sangiovese と土着品種 Ciliegioloのブレンドの三日月のデザインが印象的な赤ワインL’UNO MAREMMA TOSCANA DOC ROSSOも開けました。汗ばむほどの暑い日だったから昼間から赤ワインはきついかなと思っていたけど、Ciliegioloの名前の通りのさくらんぼを思わせる甘酸っぱさとスパイシーさもあり、ドライで飲みやすく料理にも合いました。
まるで月光のようなワイン
ワインもすすみ、私達はワインにかける思いから瞑想などの生活習慣についてまで、いろいろな話をしました。Elisabettaと話をしていると、イタリア人というより日本人と話しているような気になりました。日本の禅に興味を持ち自身でも実践しているそう。
彼女のワインは限りなく優しいのだけど、月光のような凛として一本芯が通っています。このニュアンスは彼女自身の性格そのものだし、その背景には禅等を通して自分と静かに向き合う時間を大切にしている、地に足の着いた生活があるのだと思いました。
こんな風に飲んでみたい
Elisabettaのワインは、そのエチケットのように満月の夜よりは三日月の夜がよく似合う。大勢でワイワイするよりは、気心の知れた友達と静かに語り合う時にそばにいて欲しいと思います。(もちろん飲み方は自由ですが、、)
あいにくまだ日本未輸入だけど、ローマ市内のいくつかのエノテカにはあります。息子のFILIPPOがローマで営むワインバーVINNICO WINE BAR (http://www.vinnico.it/)には常時フルラインがあるので、観光地の喧騒を離れElisabettaのワインと静かな時間を過ごすのはいかがでしょうか。