
シャンパンといえば、この曲
映画のヒットに伴いクイーンの曲も再注目されています。クイーンのデビューは1973年、映画のクライマックスとなるライブエイドは1985年。30~40年も前の曲が脚光を浴びているこの状況、リアルタイムで聞いていた私も感無量です。
さて、シャンパンが登場するのは「キラー・クイーン」。指ならし5回、”She keeps her Moet et Chandon, In her pretty cabinet …”で始まる曲です。映画では前半に登場します。プロデューサーが「次の曲も、ヒットした『キラー・クイーン』と同じように」と指示するも、フレディたちは「同じことはやらない」と反発し、できあがったのが「ボヘミアン・ラプソディ」、という流れでした。
この「Moet et Chandon」 とは、フランスの「モエ・エ・シャンドン」社のシャンパンのこと。固有名詞を突っ込んでくるところが、さすがフレディ・マーキュリー冴えてます(歌詞の固有名詞と言えば緑の中の真っ赤なポルシェを思い出すのは私だけ? NHKでは『車』と言い替えて歌ってたんですよね、百恵ちゃん)。
モエ・エ・シャンドン社は、18世紀に創業されたシャンパーニュ地方最大手のメゾン(シャンパンメーカーのことをこう呼びます)で、アンペリアルシリーズや特級のドン・ペリニヨンを擁しています。
「キラー・クイーン」の時代
「キラー・クイーン」がリリースされた1974年当時、モエ・エ・シャンドンは自動車のル・マン24時間レースのスポンサー。1970年にあの「シャンパンタワー」を始めたのも同社だそう。フレディは、このイメージをしっかり活かしたわけですね。
一方、この頃の我が国では本格的なワインが普及し始めたところでした。シャンパンを含むスパークリングワインの輸入量は、現在の約40分の1です。1970年にワインが輸入自由化され、その年に開催された大阪万博では欧米各国のパビリオンでヨーロッパの食文化が紹介されます。「万博でワインが入ってきたんだよ」「ワインもソースも、それまで味わったことがない味だった」。飲食業界の重鎮さんからよく聞く話です。
日本国内の多くのクイーンファンにとっては「“Moet et Chandon”って何?」という状態だったはず。
シャンパンが高級なワケ
シャンパーニュ地方はフランスの北部に位置し気温が低いため、ブドウが育つには若干厳しい気候です。しかし、パリやイギリスに近いという地理的優位性も活用して17世紀のイギリス上流階級やパリの王室貴族をしっかり取り込み、上質で華やかなイメージを確立していき、現代に至ります。
きっちり品質を担保し、理想的な価格を設定し、そのイメージに沿ったパッケージや広告を展開して利益を上げる、ブランド戦略のお手本です。
それもそのはず、大手シャンパンメーカーの多くはいわゆる「ブランド大企業」の一員。モエ・エ・シャンドン社は現在ヴーヴ・クリコやクリュッグ、ルイナールといった有名メゾンと共にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループに属しています。
もちろん、イメージ戦略だけではありません。
シャンパンは、フランスの法律で厳しく製法が定められています。例えシャンパーニュ地方で作られたスパークリングワインであっても、ルールから外れたものは「シャンパン」と名乗ることはできません。
シャンパーニュ地方の中でもとりわけ品質の良い特定の地域のぶどうだけを使うこと、選りすぐりのぶどうだけが原料になるようすべて手づみで収穫すること、雑味が出ないようぶどうを柔らかく絞ること、コクが出るよう酵母のオリと共に瓶の中で12カ月以上(実際は何年も)熟成させること…。
詳しくは柳忠之先生の書かれたこちらの記事をご覧ください。
→シャンパーニュ醸造の基礎 https://wine-what.jp/wine/1316/
ぶどうの粒を選りすぐった上に、軽く絞って終わりとなると、歩留まり悪いですよね(残りは主に安いワインやワインビネガーの原料になります)。
「長期間熟成」もコストがかかります。出荷しなければ売上はゼロ。何年も熟成させるにはその分のスペースも必要です。これを持ちこたえるのはなかなか難しい。国によってはアルコール発酵して「酒」になった時点で酒税がかかる国もあります(現在日本では出庫時に課税)。
家族経営で小規模に、でも非常に上質なワインを作っているニューワールドからの来日セミナー。「どうしてもっと熟成させてから出荷しないのか」という質問に、その作り手が「在庫のワインの税金を誰か払ってくれるのか」と半ばマジ切れしてしまったこともありました。
映画の評価は?
2019年1月7日に発表されたアメリカのゴールデン・グローブ賞で映画「ボヘミアン・ラプソディ」は見事映画ドラマ部門の「作品賞」に輝きました。ちなみに、ゴールデン・グローブ賞のオフィシャルシャンパンは、28年連続であの「モエ・エ・シャンドン」。
その後監督の過去の暴行疑惑が判明し、来たる2月24日(日本時間25日)の米アカデミー賞では受賞が危ぶまれています。当の監督はクランクアップ前にクビになっているし、はてさてどうなることやら。
まあ、受賞してもしなくても、自分のお気に入りには変わりなし。
The show must go on.