高度な技術を持った謎の民族、トラキア人
数千年前、バルカン山脈の彼方に粗暴で激しい突風の化身神・ボレアスがいて、その場所に駿馬と共にあらゆる敵を倒してきた戦いを好む民が住んでいました。それがトラキア人。
かれらは文字を持たなかったためギリシャ神話や古代から伝承されている物語の中の謎めいた民族として捉えられていました。
21世紀になってブルガリア各地でトラキア王の墓が発掘され、約6千年前の世界最古とも推測される黄金の装飾品、マスク、ワインを入れるリュトン等が次々と見つかり、その高度な加工技術が注目され、トラキア人の謎を解くため今も調査が続いています。
バルカン半島の広い範囲にその痕跡が見られるトラキア人ですが、主に現在のブルガリアに多く居住していて、北東部のゲタイ族、中央地域のオドリュサイ族、南部のベッサイ族の3部族が有名です。死をも恐れぬ勇猛な民であるトラキア人は、足の速い馬を操り、戦に繰り出し、戦が終わると酒池肉林の宴を行っていたようで、それは魂の不滅を信じ現世や肉体はかりそめのものであると言う死生観や信仰からきていたと考えられています。
トラキア王の墓のある町の名を関したワイン
かれらの信仰していた酒と豊穣の神がギリシャ神話のディオニソスとなり、後世のディオニソス信仰に繋がって行ったのです。太陽信仰も併せ持っていたトラキア人は太陽が一番短い冬至が新年と考えその日もワインを飲み盛大に祝っていたようです。
トラキア人の興隆も紀元前3世紀頃から他民族の侵入で勢力が衰え、その後スラヴ人やブルガール人に吸収されて歴史から消えて行きました。
ブルガリアとギリシャ、トルコの国境地帯にあるカタルジーナ・エステイトはワイン造りで有名であったトラキア王の墳墓がある「メゼック」と言う町に隣接しています。
カタルジーナはその古代トラキア王に敬意を表し、「メゼック」をワインのブランド名としています。またカタルジーナのシンボルマークは風のように走るトラキアの駿馬となっています。
ホメロスのイーリアス物語にも出てくる、トラキア人が栽培していたブルガリア固有品種のマヴルッドをはじめ、「メゼック」ブランドにはそんな知られざるトラキア人の物語が込められているのです。