ワイン醸造と化学の基礎
平成30年6月24日、株式会社高畠ワイナリー 取締役製造部長の川邉久之氏による講義が行われた。最初に、ワイン醸造に求められる化学の分野出身じゃない人も多いと思うが、レベルを落とした講義をしても仕方ないので、火傷するぐらいハイレベルな内容で進めるとの表明があり、少なからず受講者が動揺する場面があった。筆者も化学はからきし不得手である。
はじめの心構え
これから醸造に関わることがどういうことなのかという心構えなど、注意勧告のような言葉をいただいた。酵母を添加すると、もろみになる。発酵が始まりワインになった後は、生産者はワインという酒税担保を管理するという義務が課せられる、という大切なことを教えられた。要するに、ワインを課税移出し、国に酒税を収めるまで自分のものではない、という認識を持って管理すべしということだろう。
また、管理しているワインの量が減る、または消失したときには亡失届がいることと、その内容によって手続きに必要な書類内容について説明を受けた。亡失届を出す場合、主に下記のような原因がある。
①操作上の不備
②飲用にあたらず
③ワインを腐らせた場合や、酢のようになって飲めない場合
そうなった場合の状況により、再発防止策や反省文などの提出が必要になるとのこと。
分かりやすい説明で、すいすいと進む講義
川邉久之氏は、人気のエノログ(ワイン醸造技術管理士)である。最初に「火傷するぐらいハイレベルな講義」をすると聞いたので緊張していたが、とても分かりやすい説明で驚かされた。描写など、置き換える能力や例えるのが上手いのだと気付かされる。
酵母にもいろいろあるが、人間と同じ
非常に面白い発言が川邉久之氏からあった。酵母にもいろいろあるが、人間と同じで働かない人間(酵母)もいるし、きちんと働いて家にお金を入れてくれる人間(酵母)もいるのだそうだ。選抜酵母は2万~3万分の1で選ばれた優良酵母であり、人間に例えるといわば、選りすぐりのエリートだ。
亜硫酸添加についての面白話
まだまだ川邉久之氏の絶妙な例え話は続く。亜硫酸を添加する場合、5%程度に調整したピロ亜硫酸カリウム溶液を果汁受けに均等に添加するのだが、ワインに悪影響を及ぼす野生酵母やバクテリア等の微生物による汚染や、ブドウやワインが過度に酸化するのを防ぐ目的として、加えたい遊離型亜硫酸の4倍を添加する必要がある。
川邉久之氏は、ここで銀行に例えて、銀行に預金をして、翌日に残高照会に行くと、自動的に定期預金に預け入れされてしまい、残高がない状態だという。この遊離型亜硫酸は、添加して24時間でブドウやワイン中の酸素や他の成分と結合し、値が変わるという。
ピロ亜硫酸カリウム溶液(英: Potassium metabisulfite)は化学式K2O5S2で表される無機化合物。亜硫酸の二量体であるピロ亜硫酸のカリウム塩で、メタ重亜硫酸カリウムとも呼ばれる。用途はピロ亜硫酸ナトリウムに類似している。性質は、刺激臭がある白色の粉末で、単斜晶系の結晶構造を持つ。190℃で酸化カリウムと二酸化硫黄とに分解する。ワインでは酸化防止や微生物の繁殖防止の目的で、発酵前に添加される。(Wikipediaから一部抜粋)
発酵はゲームと言いきる川邉久之氏
悪い菌が出てくる前に、全体を酵母で制して占領した方が勝ちという、まるで国盗りゲームのようだと言う。一気に難しいと思っていた醸造が分かりやすくなった。頭の良い人が上手い言い回しで説明すると、こうもしっくり頭に入ってくるのだなと感激した。他には果汁の糖度が高いほど、バクテリアに対して耐性があるなど、さまざまなことを学んだ。次の講義が今から楽しみである。