ヴィネクスポ香港は3日間の開催ですが、私が参加したのは2日間のみ。世界30カ国から1,465社の出展があるということで、全部見るのは無理でも雰囲気は十分味わえるだろうと深夜便で香港に到着。
中国のワインブームを肌で感じる
会場に入ったとたん、賑わいに圧倒されました。押すな押すなというわけではないのですが、各ブースがそれぞれ盛り上がっていてやたらに活気があるのです。
この活気は何だろう。
しばらくいると、その理由がわかってきました。来場者の年齢層が若いのです。いわゆる「ミレニアル世代」の若者のグループやカップル。女性同士での参加も目立ち、モデルさんのようなアジアン美人も目につきます。暑い香港なのに、短パンやジーンズの人があまり見られず、みんなちゃんとおしゃれしている感じです。
あー、旅行用の履き古した白パンツなんか着てこなければよかった。(でもまあ、私の服装なんか誰も見ていないからいいや)
それにしても、こんな若くてイケてる人たちがこれだけワインに興味を持っているってすごい。ヴィネクスポの予測では、中国は2021年にはアメリカに次いで2番目のワイン消費国になるということですが、たしかに、その通りになるのだろうと思います。
試飲だけでなく「学び」も用意
そもそも見本市というのは業界人の商談の場なので、商売につながらない私のような一般人、しかも「ワインを勉強しているだけの人」は嫌がられるかと思いきや、ここは誰でも分け隔てなくウェルカムの雰囲気。
1500近い展示ブースではどこも試飲用のワインとグラスを大量に用意していて、訪れる人にワインを注いでくれます。
まわりを見渡すと、確かにあちこちで商談をしていますが、ワイン勉強中の人も相当数来ているようです。どこのブースでも単に試飲するだけでなく活発に会話が繰り広げられていて、それも会場の活気を生み出しているのです。
また、「Vinexpo Academy(ヴィネクスポアカデミー)」と呼ばれるセミナーが1日20コマほど行われていて、こちらも大盛況。プレミアムワインが試飲できる講座が多いのにもかかわらず、入場料さえ払えばぜんぶ無料というのだから驚きです。
普段飲めないワインを試飲するというのも今回の大きな目的なので、私もここぞとばかり、「お高い」ワインのセミナーに参加しました。
ちなみに入場料は事前割引だと3日間で200香港ドル(約2700円)。申し訳ないほどの安さです。
ワインの世界地図が見える展示フロア
展示フロアは二つに分かれていて、一階のメインフロアはフランス以外のヨーロッパとニューワールド、そして上階はフランスと中国でした。ブースの配置や広さは、世界のワインの勢力地図がそのまま表されているようで興味深いものがあります。
1階でダントツ目立っていたのが今回のメインスポンサーでもあるオーストラリア。入り口近くの大きな一角を占めています。オーストラリアは国をあげてワインのPRに熱心という印象がありますが、ここでもやっぱり「センター」を取っていました。
ニューワールドをつぶさに見ていくととても時間が足りないので気になるところだけ。ナパバレー、ジョージア、モルドバなどに立ち寄り試飲させていただきました。
もちろん、イタリア、スペイン、ドイツなどヨーロッパの国々のブースも魅力的です。
日本からの出展は、「サントリー登美の丘ワイナリー」と「CHOYA(梅酒)」の2社。
ワイナリーは「登美の丘ワイナリー」のみでしたが、日本ワインへの関心はかなり高く、常に人だかりの盛況ぶり 。
先日IWCで日本ワイン部門のトロフィーを取った「TOMI RED 2013」のほか、日本の品種「甲州」「マスカットベリーA」に関心が集まっていたとのこと。
高級感あふれるボルドーの展示ブース
上階の展示フロアへ移動。ここはフランスがメインです。一番いい場所を占めるのはもちろんボルドー。ヴィネクスポはボルドーで始まった見本市なのです。なおかつ中国はボルドーワインのナンバーワンの輸出先ということで、この一角だけは別格の雰囲気が漂います。
「シャトー・ムートン・ロートシルト」を擁するバロン・フィリップ・ドロートシルト社のブース。受付嬢は笑顔ですが、無言の敷居の高さで、とてもふらりと寄れる雰囲気ではありませんでした。
それにしてもフランスフロアはボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、プロヴァンスなどなど、有名どころがありすぎて、もうどこから回っていいのやら。さすがワイン大国ですね。
うろうろしていたら、いま私が一番行ってみたい場所、アルザスを見つけたので大好きなリースリングを飲ませてもらいました。
「アルザスではリースリングにはソーセージやゴートチーズと合わせるのよ」と生産者さんにペアリングのアイデアをいただきました。。ゴートチーズは食べたことがないので、さっそくやってみようと思います。
よく考えると、目の前でワインを注いでくれるのが生産者さんだなんて、なんて贅沢なんでしょう。そのワインについて一番よく知っていて、一番情熱を持っている人に注いでもらうのは本当に幸せなことです。
シャブリの「広報力」に脱帽
その幸せをいちばん実感したのは、「シャブリ」のブースでした。
シャブリ地区はフランス北部の内陸にありますが、ジュラ紀、白亜紀には海だったところで、特殊な石灰質に化石がまじった「キンメリジャン地層」と呼ばれる土壌です。その土壌のミネラル分をブドウが吸い上げ、シーフードに合う美味しいワインになると学びました。
シャブリのブースに行くと、なんと、石が置いてあるではありませんか。
「これがシャブリの土壌か・・・。確かにこれは石灰石。思った以上に化石っぽいわ」
じっと見ていると、電話を終えた担当者の方が来てくれました。
「これがキンメリジャンですよ。牡蠣が入ってます」とさらっと語るのは「La Chablisienne (ラ・シャブリジェンヌ)」の輸出担当者ロドリグ・ブーデックさん。
「ラ・シャブリジェンヌ」は単一のワイナリーではなく、300名の組合員からなる生産者協同組合。シャブリ全体の四分の一の生産量をしめるそうです。
ブーデックさんは土地の形状をあらわした立体地図を使って、ていねいにシャブリの地形について解説してくれました。
「プルミエクリュ(一級畑)にも右岸と左岸の2種類があるんです。真ん中を流れるスラン川の右側と左側ですね。それぞれ向きが違うので太陽の当たる時間帯が違います。左岸は午前中、右岸は午後に日が当たり、日照時間が長いので太陽のエネルギーをより多く吸収します。だから左岸より右岸のほうがより美味しくなります」
地図を片手に熱弁をふるうブーデックさん。
「グランクリュ(特級畑)はこの一帯です。7つあります。うちが扱っているのは「グルヌイユ」という一番小さい畑です。隣は「レ・クロ」と言ってシャブリで一番大きなグランクリュです」
それそれそれそれ。それー。
ソムリエ試験の過去問に出てくるやつです。「シャブリの一番小さなグランクリュ、グルヌイユ」。教本に赤線ひっぱった覚えがあります。いやー、シャブリの人から直接その解説が聞けるとは。これだけでも来て良かった。
そして「プティ・シャブリ」からグランクリュまで格付けの順に試飲させていただきました。
シャブリという同じ地域で、シャルドネという同じブドウを使っていても、畑の違いでこんなにも個性が違ってくるとは。そしてその土地の個性を大切にしたワインづくりを行っていることがよくわかります。
なんだか申し訳ないぐらい時間をかけてもらいましたが、おかげでシャブリについて理解を深めることができました。名声にあぐらをかかず、石まで持ち込んでていねいに解説する広報姿勢に心動かされます。
ワインを学ぶことの大事さ
今回はたまたま、勉強したばかりのシャブリについての解説だから理解ができましたが、もし私がワインの勉強をしていなかったら「キンメリジャン」などという言葉は絶対に聞き取れなかったし、ブーデックさんの言っていることもおそらく半分も理解ができなかったと思います。
「シャブリは美味しい」「シャブリはシーフードに合う」というだけで終わっていたかもしれません。
それはそれでいいけれど、せっかくこんな熱量で作られたワインを「美味しい」だけで終わらせたくない。「どう美味しいのか」「なぜ美味しいのか」までを説明できるようになりたいし、人にも伝えたい。
ワインを勉強しはじめたばかりで、まだまだ道のりは長いですが、まずはそこを目指してみようと思いました。やっぱりワインを学ぶって素晴らしいし、そこには大きな意味があります。
たくさんのワインを飲んで、たくさんの生産者さんと出会ったことで、ワインの価値だけでなく「ワインを学ぶこと」の価値を学びました。
それが今回の香港の一番の収穫だった気がします。