
13年前の旅のおはなしです。
ピエモンテ州アスティ、モンフェッラートのブドウ畑の真ん中にある、ロカンダ(レストラン付き宿)に泊まった時のこと。
3月の終わり、その日は復活祭直前の「枝の主日」でした。到着した午後の時間には、美しいシンメトリックなイタリア式庭園を散策する人たちの姿が見られたのですが、聞けばその日の泊り客はなんとまあ、わたし一人、みんなチェックアウトしたお客さんだったんですね。
「予約されたお部屋はダブルルームですが、空いておりますのでよろしかったらスイートルームをお使いください。もちろん追加料金はいただきませんよ。」
なんということでしょう、夢のようなご提案をお受けしないわけがないじゃあありませんか。
アーチが連なる回廊を進んでいくと、レストランがありました。フレスコ画が描かれた美しいヴォールト天井、ニッチにはめ込まれた重厚なキャビネット、壁面の修道士の絵… かつて修道院だった装飾にしばし見惚れていると、厨房の奥から声が聞こえてきたのです。
「ようこそ!今宵は貴女の為に、コック全員が腕を振るいますよ! 最高のディナーをお楽しみくださいね。」
声の主はこの美食レストランのシェフだったのです。美味しい料理とワイン、粋なスタッフの計らいに大満足のわたしに、翌朝には更なるサプライズが!!
鳥のさえずりと樹々から差し込む朝のやわらかい光は、心身の目覚めを心地よいものにしてくれました。日本にいるときは朝が苦手なんだけどなぁ。眺めの良いテーブルには「ブオンジョルノ、シニョーラ○○!」のメッセージと共に可愛いブーケが添えられていました。
ところ狭しと並べられた朝食メニューは、たった一人の泊まり客のために用意してくれたミニビュッフェだったのです。パンやタルト、ヨーグルト、ジャムも、どれもこれもが手作りで絶品! 素適なテーブルの演出ともてなしの心。これまで127か所のイタリア各地を巡り回ったわたしですが、こんな夢のような時間には、後にも先に出逢ったことがありません。それはそうですよね… 今でも忘れられないイタリアの朝です。
後日談:Cena(ディナー)でいただいたワインは、バルベーラのハーフボトルだったのですが、ボトル一本分の料金を支払っていたと連絡がありました。すでにチェックアウトして、リグーリアに向かっていたわたしは「いやあ、大丈夫ですよ。あんなに素敵な滞在ができたのですから…」
すると「では次回、バルベーラのボトル一本をサービスさせていただきます!」
13年経ってしまったけれど、まだ覚えていてくれるかしらねぇ(笑)
※ドルチェとは「スイーツ」「優しい」「愛情のこもった」「甘く懐かしい」という意味。