収穫前からはじまる、ラボの仕事
Napa Valley CollegeではWork Experience(就業体験)の単位として、学校のワイナリーや畑でインターンシップをすることができます。わたしはワイナリーのインターンに1年半ほど参加していて、基本的なラボやセラーの仕事をひととおり体験しました。
ワイナリーの年度始めをどの作業からとするかは、いろいろ意見が分かれると思いますが、ラボの仕事のスタートはやはり「収穫前」でしょう。
収穫時期が近付くと、ぶどうのサンプルをとり、糖度/酸度/pH等を調べます。これは目指すスタイルのワインを造るための収穫日を見極めるのが目的で、収穫間際は毎日測定することもあります。
糖度:アルコール度数に影響
滴定酸度(TA):酸味(味わい)に影響
pH:品質の安定に影響
pHメーター
発酵期間中はワインのベビーシッターで大忙し!
発酵がはじまると、毎日糖度と温度の測定をし、問題なく発酵が進んでいるかどうか確認します。途中で発酵が止まってしまうと糖分が残ってしまい、甘~いワインができてしまいますから、問題が起こらないように、もしくは、問題が起きてもすぐに対処できるよう、注意深く見守ります。
発酵期間中はよく自分のたちのことを「ワインのベビーシッター」と言いながら、発酵中のぶどうたちの元へ足繁く通います(笑)
糖度がゼロに近付くと、薬剤を使って残糖の割合を確認します。これを「クリニテスト」といいます。
この薬剤では、「だいたいどれくらい糖が残っているか」ということしかわからないので、完全に糖分がアルコールに変換されたことを確認するためには、別の薬品と機械を使って残糖を調べるということもします。
熟成期間。ワインを樽に入れたら終わり、ではありません!
熟成期間中もラボは働き続けます。熟成期間中には、pHのほかに、 VAと Free SO2を定期的に測定します。
簡単に説明すると、
VA:どれだけ微生物に汚染されているか
Free SO2:微生物の活動を抑制するための亜硫酸が、どれだけワインの中に残っているか
を表す数値です。(亜硫酸は抗酸化と殺菌のために使用される薬品)
VA
Volatile Acidityのことで、日本語では揮発酸と訳されるようです。酢酸、乳酸、ギ酸、酪酸等を総称してVAと呼んでいます。VAは発酵途中に微量が自然に生成されます。ワインメイキングで心配材料とされるのは酢酸です。好気性の酢酸菌は、その活動によりセメダインや除光液、またお酢の臭いを発生させるのです。お酢の臭いのするワイン…もうワインヴィネガーですね!そうなることは何としてでも避けたいので、定期的にVA値を計って、ワインがどの程度微生物に汚染されているかを判断します。酢酸が活動するには酸素が必要なので、随時ワインをつぎ足し(トッピングといいます)、樽やタンクを満タンにして、ワインと空気の接触を最小限に留めます。また、亜硫酸に弱い特性があるので、適量を添加し、品質を安定させています。

亜硫酸はそのままだととても強い薬品ですので、添加するときにはマスクを装着するようにと言われています。ちょっと怖いですね。でも、ちゃんと法的リミットもありますもありますし、樽に入れるのはほんの少しなのでご安心ください
蒸留した液体をこの機械で滴定します
Free SO2
VA値が高くならないように、また他の微生物によるダメージから守るため、熟成中は定期的にSO2(亜硫酸)を添加します。どの程度のSO2を添加するかを決めるために測るのが、このFree SO2とpHです。亜硫酸はある程度はワイン中の成分と結び付いて、微生物に対して抑制効果を持たない形態に変化してしまいます。
また、時間と共に結合が進み、放っておくとどんどん効果のある成分が減っていってしまうのです。この抑制効果を持つ亜硫酸が活躍できるかどうかはpHによっても左右されるため、pHの測定もセットになります。
Free SO2エアレーション。Free So2の測定の様子(マニュアルバージョン)
出荷前にもう一仕事、アルコール測定
こちらはアルコールの測定の様子です。
この他にも、ワインを理想のスタイルに近づけるため、また品質を安定させるためにさまざまなことが行われていますが、ひとまず今回はここまで。また次回もマニアックな話が続きます…。