寒河江市って、ご存じだろうか。
さくらんぼで有名な山形の小さな市だ。ある仕事でこの町を訪れたのだが、この仕事がなかったら、一生来ることはなかった土地かもしれない。
そんな場所で、私は見つけてしまった。一期一会の居酒屋を。
山形駅から単線の左沢線(あてらざわせんと読む)に乗って、約30分ほどで、寒河江駅に到着する。
駅前に、飲み屋街が見あたらず、飲んべえの私は、少なからずがっかりしたのを覚えている。
しかし、ホテルで周辺地図をゲットすると、あるじゃないか、駅の北側に居酒屋やスナックが集まってる小さなエリアが。
用水路だろうか、小さな川が流れていて、そのまわりが、ちょっとしゃれた感じのミニ繁華街になっていた。しかし、新しい店が多く、そそられる店はあまりなかった。
他をあたろうかと思いかけたそのとき、「ほろ酔いセット1000円」と書かれた手書きの看板が目に入った。近寄って見てみると、「お造り1品、焼き魚1品、小鉢2品に日本酒とっくり1本」で1000円と書いてある。
これは、すごい。東京では、考えられない1000円セットだ。
店に入り、カウンターに座って、ほろ酔いセットを注文。
「日本酒はぬる燗でお願いします、あとビールも」と注文すると、おかみさんの元気のいい返事。気持ちいい。
しかも、出てきた料理は本格的で実にうまい。
きちんと一流店で修行をした仕事であることが、盛りつけ方やつけあわせの処理などから感じられる。
まだ若い夫婦で店を切り盛りしているのだが、おしゃべりで愛想がよく、ついでに気っぷもいいおかみさんと、寡黙だけど腕のいい板前のだんなさん、という組み合わせは、居酒屋の理想ではないだろうか。
料理がうまいと酒が進む。
いい気分になって、おかみさんやだんなさん、そしてカウンターの常連さんたちとたくさん、たくさん、おしゃべりをした。
はじめて入った店なのに、まるで常連のように気分よく飲めた。
寒河江は、私にとって忘れられない場所になった。
この町に、もう一度来る機会があるかどうかさえもわからないんだけど、私は「また来る」と言って店を出た。不思議なほど、自然に出てきた言葉だった。
まさに一期一会の出会い。
これがあるから、旅先での居酒屋めぐりはやめられない。