オクシタニー生まれのアンドレ・パッションさんと、オクシタニー育ちのパトリック・パッションさんにオクシタニーならではの料理やワイン、見どころを語ってもらいました。
カスレとコルビエール
オクシタニー地方を熟知する パッション親子が語る
カスレはソウルフード
カスレは、熱い。
鍋料理が物理的に熱いのは当然として、カスレを取り巻く人たちも熱い。南仏オクシタニーの郷土料理であるカスレは、豆や肉の入った名物の煮物料理である。
「料理名の語源となったカスレ―ル(土鍋)を使う」「豆は白いんげん豆の一択」など基本ルールがあり、あとは地方や人によってスタイルが異なる。地域としてはトゥールーズ風、カルカッソン風、カステルノー・ダリ風と分けられる。
「どこのカスレが本物か、って現地ではいつも論争になるんです。ラーメン好きな日本人が集まると『豚骨が一番』『いや醤油が基本』と白熱するのと同じ。そして、スタイルは違うけどどれもおいしいという結論に至るのも、ラーメンと一緒」とパトリック・パッションさん。
パトリックさんの父、アンドレ・パッションさんはカスレ作りで右に出るものはいないシェフである。
本場オクシタニーで「カスレの王様」と称された師匠マルセルさんのレシピを忠実に守り、アンドレさんもまた、東京でカスレの王様として君臨する。料理というものは時代や作り手によってアレンジされるのが常だが、10代からカスレを作り続けたアンドレさんの場合
「アレンジはナシ。白いんげん豆も鴨肉も、フランスから取り寄せています。あとはその日に使う食材に合わせて調整を施すだけ」
この〝調整〞とやらが、じつはもっとも難解だ。紙に書かれたレシピ通りに作ってもピンとこない味わいが、ちょっとした匙加減でピタリと決まる。ときに息子のパトリックさんがカスレ作りに挑戦するも、「父がずっと後ろに張りついてます(笑)」とパトリックさん。
いつもそばにいる息子の彼ですら掴みきれない塩梅があるらしい。
なぜ、コルビエールの赤なのか
さて、カスレに合うワインはずばりオクシタニーの内陸部、コルビエール産の赤ワインである。
豚肉から抽出されるコラーゲンのとろみと旨味に圧倒されるカスレと、オクシタニーで一番パワフルな赤ワインのコルビエールは当然のペアリングである。なかでも「ロシュマゼ コルビエール」は、カスレの友としてフランスでも日本でも重宝される。
家庭料理を原点としつつレストラン料理まで高められ洗練されたカスレ料理と、カジュアルながら気品のあるロシュ・マゼのコルビエール。両者は方向性を等しくしつつ、味わいのパワーバランスもとりやすいのだ。
オクシタニーの人々はもてなし好きの地元密着型
オクシタニーのモンペリエに生まれ、カルカッソンヌの生活も長かったアンドレさんは、来日してから半世紀経ち
「こんなに日本で長く生活するなんて、最初は思ってもみなかったですよ」
故郷の同級生や親戚はほとんど全員、オクシタニーに住み続けている。オクシタニーの外、ましてや遠い日本で長年生活をしているアンドレさんは、オクシタニー人として非常に特異な例なのだとか。
というのも、オクシタニーの人たちに共通するのが、腰の重さ。定期的に地元へ帰るアンドレさんたちが友人や知人に日本の素晴らしさを伝えると、「いいね」と思ってもらえても、「じゃあ私も日本へ旅行してみよう」との流れにはならない。
「それはきっと、オクシタニーのなかで、なにもかも事足りるからでしょう」と、パトリックさんは推測する。
おいしいワインが各地で造られているのは、言わずもがな。山で獲れる食材はジビエや川魚、エスカルゴ、トリュフなどキリがない。地中海は、イワシやアンコウ、生牡蠣などこれまた魚介類の宝庫である。
また、大学の集まるモンペリエ、エールフランス本社をはじめ航空産業の大企業が拠点を構えるトゥールーズもオクシタニーの圏内。恵まれた環境のおかげで、地元密着型の人間が形成されていった……というのがパトリックさんの見立てだ。
生まれ育った土地からなかなか動かないため、人と人との繋がりが深くなるのもまた、オクシタニーの個性である。
「だから、みんなあたたかい人たち。客を家に招いてもてなすのが大好き。あと、暮らし方が上手です。底抜けの明るさとはまた違うんですけど、たとえばコロナ自粛で活動が停滞していても、『次の夏休みは何をしようかな』とオフの日をイメージしてストレスを減らしていくような……」
そう語るパトリックさんを指さし、アンドレさんは
「あと、オクシタニーの人はおしゃべり好きだよねぇ。彼を見てれば分かるでしょ(笑)」
フランスワイン発祥の地
あまり日本では知られていないが、オクシタニーはフランス人にとって一番の人気観光地であり、ワインツーリズムも盛んな地方だ。
「フランスで最初にワイン造りの文化が根付いたのは、オクシタニーって知ってました? 地中海から侵入してきた古代ローマ人が、当時まだ野蛮人だったフランス人にワイン造りを伝えたのはオクシタニーのナルボンヌです」とパトリックさん。
しかし日本人にとってワインをテーマにしたフランス旅行先はシャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュが定番。渡仏経験を重ね、ようやくオクシタニーが訪問候補地に上がる。
「でもね、レストランのお客様でオクシタニーを訪問した旅行通の皆さん、『すごくよかった』『また行きたい』と必ずおっしゃるんです」とアンドレさん。
「日本からの交通の便が未発達だったのはかなり昔の話。今はパリ経由ですぐ到着できる時代です。プロヴァンスは、イギリス人のピーター・メイルが小説でプロヴァンスを紹介してから一大ブームになったでしょう。オクシタニーだって、何かちょっとしたきっかけで大ブームが起きそうな魅力をいっぱい抱えているんですよ」
レストラン パッション(Restaurant PACHON)
東京都渋谷区猿楽町29-18
ヒルサイドテラスB棟1号
営業時間 11:30 ~13:30、18:00 ~21:00(LO)
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