世界中のワインファン注目の地、オーストラリア。この名醸地を代表するプレステージワイナリーが「ローズマウント」だ。今回、初来日したワインメーカーのランダル・コミンズさんが、ワイン造りへの思いや哲学を語ってくれた。
コミンズさんはアデレード大学で醸造学を修め、南オーストラリア大学でMBAを取得。2009年からワインメーカーとして、同ワイナリーの舵を取る重責を担っている。
まず、来日してもっとも印象的だったことを聞くと、「和食の繊細なおいしさ、バランスの良さに感動しました! ローズマウントの自慢はバランス。私たちのワインを受け入れてもらえる土壌があることを確信し、すっかり嬉しくなってしまいました」と目を輝かせる。1990年代、パワフルで濃厚なワインがもてはやされた時代、オーストラリアワインにはアルコール度が高く、ボリュームのある果実味が求められ、いまだにそのイメージを払拭しきれていない。「嗜好品だから、市場が求めるトレンドを無視することはない。でも、この地でこそ表現できるブドウの個性を押さえつけては意味がない。濃厚なワインがもてはやされた時期、評価は高くはなかったんです(笑)」。
そして、ぜひとも聞いてみたいのが、オーストラリアワインではすでに主流となっている、スクリューキャップの使用について。「私たちも、スクリューキャップとコルクがもたらすワインの熟成状態の違いについて、徹底した比較を続けてきました。最終的な判断は、現場のプロの味覚です。その結果、スクリューキャップのほうが優れているとの結論に至り、現在は自信を持ってそちらに重きを置い ています」。
さらに、同ワイナリーでは単一品種のワインでも、産地の異なるブドウをブレンドしている。「実は私の妻も同グループのワインメーカーなので、ワインがどうあるべきかをよく話し合うんです。やはり、ワインは主役であってはいけない。飲む方の会話や楽しいシーンをサポートする存在であり、単調でないことが大事」。その一例として、同社の赤ワインは、リッチでボリュームのあるマクラーレン・ ヴェイル産のブドウと鮮やかで清涼感があるラングホーン・クリーク産をブレンドすることで、親しみやすい軽やかさと心地よいボリューム感を演出している。これは、リージョン間のブレンドが自由であるからこその魅力だ。
「私が感銘を受けた繊細な“umami”の概念。そこに柔らかく調和するワインを作り続けていきたい。日本の方々に理解していただける日が必ず来ると確信しています」。
さて、ここでWINE-WHAT!? 編集部はすっかり日本の食文化に魅了されたコミンズさんとともに街へ飛び出し、ワイナリー最大の理解者であり、パートナーでもある注目ニューオープンレストランを訪問することに。
最初に訪れたのは、「ビストロ サ ヴァ サヴァ」。ここでは「ダイヤモンドラベル ソーヴィニヨン・ブラン」 に合わせ、「さばとメークインのテ リーヌ」を提案してくれた。「なんて 美しい! 本当に日本で出合う料理は向き合うだけでわくわくするような美しさがある。そして、このソースは何ですか?」。香ばしく皮目を焼いたさばと粗くつぶしたじゃがいもを層にし、もろみ味噌のソースと黒七味をアクセントにした一皿。「英語では“savory”という言葉がある。単に塩気が強いと理解されがちですが、私たちはそのようには使わない。日本の料理を味わううちに、“umami”と近いのではないかと思いました。このソースがまさにそれですね」。フレッシュな柑橘のニュアンスを持つワイ ンが魚料理と合うのは当然。さらに、ほのかなハーブ香や完熟した果実のたっぷりとした旨みが、青魚の風味とも調和する。
- ローズマウント ダイヤモンドラベル
ソーヴィニヨン・ブラン - グリーンを帯びた淡いイエロー。レモンやハーブ、ほのかにパッションフルーツの香り。軽やかながら果実の旨みが詰まっているので、白身から脂ののった魚料理まで1本で網羅。
次に訪れたのは、ピッツェリア「クラウディア2」。同ブランドのシャルドネに「オルトナーラ風 カニのトル テッリ」を提案してもらった。「今まではシャルドネ=チキン料理が定番。 でも、近年よりブドウのフレッシュさを前面に出したスタイルになっているので、シーフードと合わせるのがオススメ。それをしっかり理解してくれているマリアージュで、うれしいですね!」。
- ローズマウント ダイヤモンドラベル シャルドネ
- 緑がかった淡い麦わらのカラー。新鮮な桃やレモン、かすかにローストアーモンドの香り。完熟したブドウの心地よいボリューム感とすがすがしい酸のバランスが優れた1本。
さて、引き続きシラーズに合う料理を供してくれたのは、和食の「三三五五」。「私の父は牧畜を職業としているので、幼いころから肉の味にはウルサイんですが(笑)。これは生涯最高の豚肉かもしれない!」とコミンズさんが驚嘆の声を漏らしたのは、「朝霧豚とじゃが芋の角煮」。口中でとろりととろけるほど柔らかな豚肉にミョウガやネギを添え、山椒を振った一皿だ。よりワインとの距離を近づけるため、バルサミコ酢を使用。「オーストラリアのシラーズはパワフルというのが、一般のイメージ。でも、私たちは、リージョンごとの個性をブレンドで生かし、もっと軽やかなシラーズのワインを目指してきました。だから、コクのある和食の煮込みとも相性抜群です」。
- ローズマウント ダイヤモンドラベル シラーズ
- 紫がかった濃いプラム色。熟したダークベリーを主体に、ほのかにリコリスやコクのあるミルクチョコレート、ナツメグなどのスパイスが香り、樽熟成による複雑味が加わる。
最後に訪れたのは「371BAR」。 ここでは直球かつ間違いなしのスパイシーな羊肉の串焼きと、同社のカベルネ・ソーヴィニヨンの持つ、清涼感 のある香りとの相性を再確認。
- ローズマウント ダイヤモンドラベル
カベルネ・ソーヴィニヨン - 深みのあるダークチェリーの色合い。完熟したチェリーやブラックベリーの華やかさに菫やミントの爽快感のある香り。リッチな果実の味わいに、アフターで清涼感が加わる。
「ニューワールド=パワフルで濃厚」 という画一的なイメージでオーストラリアワインを論じるのは、すでに時代錯誤。それを改めるべく、ワインメーカーの舌が納得する日本の料理とローズマウントで、繊細なマリアージュ体験してみてはいかがだろうか?