
土切祥正 at コントワール ミサゴ
ジビエが、料理人魂に火をつける
北海道のオーヴェルジュや広尾「レストラン マノワ」で修業を積み、2010年に独立した土切祥正さん。供する料理はフレンチの技法がベースだが、「うまいもの屋」を名乗る。もともとジビエには興味があり、それに加えて良い素材が集まる環境が揃ったことから、ますます力を入れるように。
11月15日のジビエの解禁日を迎えると、新潟県に住むマダムの父親が自分の田で獲ったマガモが届く。網で獲るために内臓が傷つかず、状態は抜群だ。
「ジビエは、何を餌にしているかで肉の味が変わるんです。米を食べている鴨は、しょうゆとの相性がいい。そういうときはお狩場焼きにしてしょうゆで食べてもらう。フレンチにこだわり過ぎず、お客さまが好きなように楽しんでもらえるように。だからうちは“うまいもの屋”なんです」と話す。
さらに、害獣駆除の視点ではなく、食すための扱いを心得た北海道・西興部村の猟師との出会い。たまたま譲ってもらった熊肉の質があまりに良かったため、すぐさま会いに出かけた。現在もLINEでやり取りし、仕留めた獲物の様子を写真や動画で時差なく確認して仕入れている。
写真の料理はエゾシカに小柄な体格のツキノワグマ、筋肉質で大柄なヒグマをそれぞれ異なる調理法で仕上げた一皿。エゾシカはさっと表面を炙って叩きににし、オリエンタルな香りをまとわせる。ヒグマはカモの脂を加えてリエットに、ツキノワグマは塩漬けや燻製の工程を経るなど、いずれも時間と手間が掛かっている。
「当たり外れがあるというリスクは否めない(笑)。でも、それをどうやって旨くしてやろうかと挑むことが多いから、燃えるんですよ」
与えられた餌ではなく、力強く生きた野生の生命力。それに真っ向から挑むシェフの心意気も併せていただくのが、ジビエ料理の醍醐味なのだ。
エゾ鹿のカルパッチョと月の輪熊のハム、ヒグマのリエットの盛り合わせ 3,500円 × シャトー・テルトル・ロートブッフ1993 32,000円
エゾシカのしっとりした肉質を軽い火入れで生かし、オイスターソースとカレー粉、オイルで風味付け。肉質が違うクマ肉はそれぞれを別々の味わいに仕立てた。ソムリエ資格を持つシェフが選んだのは、ガツンとパワフルな渋みやボリューム感のある果実味が特徴のボルドーワイン。それぞれの肉が秘めた野趣とワインの力強さが拮抗するマリアージュ。