ヨーロッパ人にとってジビエとは?
「秋になると、メルカート(市場)に続々と並ぶジビエの店。そういった店は、日本人にとっての魚屋のような存在なんです」
シニョール小谷によると、スイスなど、内陸に位置する国ではシーフードよりジビエの方が身近で日常の食生活に溶け込んでいるという。本場の人々にとって、ジビエはレストラン限定の料理ではなく、自宅で調理するのが基本。旬モノ同士のキノコなどと合わせるのが一般的だ。ウサギや鹿、鳩、キジなどバラエティは豊富。
とはいえ、「野生動物だけに、かなりクセがあって食べにくいのでは?」とジビエ・ビギナーは思いがちで、つい躊躇してしまう。
「確かに、畜産系の肉とはまったく違う。レストランで皿が運ばれてきた瞬間から強い匂いを放つ料理もあります。ただ、ワインが当たり前にテーブルにある食文化ということもポイントだと思います」
同じウサギ肉でも野生のものは飼育された個体より、はるかに香りが強い。それをどう受け止め、昇華させるかがワインにかかっているのだ。
クセのある肉にはクセのあるワイン
となると、気になるのは”合わせ方”だ。
「まずは、その土地のワインを合わせる、というシンプルな方法。次が料理のソースに使ったのと同じワイン。そして、香りの要素に共通項があるもの。香草や杉、シダなどのニュアンスがあればカベルネ・ソーヴィニヨンがイメージできます」
と、一般論を語った後、小谷さんはこう続けた。
「ざっくばらんに言ってしまえば。クセのある肉には、クセのあるワイン(笑)。両者の強い個性がぶつかり合えば、ダイナミックで感動するほどのアッビナメント体験が待ち受けていますよ」
たとえば、イノシシ肉の串焼きにはピエモンテ州のブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。ネッビオーロやアリアニコ、ネグロアマーロなど酸とタンニンがしっかりした品種も、味わいの強さゆえに、日本の家庭では合わせる料理に悩んでしまうこともあるだろう。そんなときこそジビエを合わせてほしい。
「肉の旨さもワインも、キレイなだけが選択肢ではないですよね。ボルドーのシャトー・ワインのように、味わいや香りの要素が完璧な球体を形成しているようなタイプだけがいいわけじゃない。ジビエには均一でないというか……何か突出したモノがあることが多い。だから、ワインの持つ荒さと互いが呼び合う関係性が成立するんです」
ワイン・ラヴァーならジビエを!
“Abbinamento”(アッビナメント)とは、イタリア語で料理とワインの相性を意味する用語である。現地でも体系的に正しい組み合わせでワインを飲むことを解説したガイド・ブックなどが多数で回っている。
しかし、やや高価な水よりも安くワインが手に入るお国柄。
同じ雨水で育った野生動物を食材とする郷土料理と、同じ土地でブドウを育て、醸したワインが「呼び合う」のは当然かもしれない。それ以外に選択肢がありうるのか? というプリミティブかつシンプルな発想のもとに成り立ちそうだ。
では、そのジビエとワインの世界をどうやって体験するか。
幸い日本でもジビエが流通するようになっている。もとは鳥獣害対策が目的だったが、食肉用としてのクオリティを左右する、迅速な血抜きなどが可能な処理施設も増え、メニューに取り入れる店が増えている。
そうはいっても、家畜ではない野生の鳥獣肉には強い香りやクセがあり、だからこそワインと合わせてこその旨さが現れる。東京でジビエを楽しむなら、一筋縄では行かない素材に並々ならぬ情熱を持つシェフとそれに太刀打ちできるワインリストを持つ店に限る。
本記事でジビエに掻き立てられるものがある読者のために、厳選したキャラ立ち熱血店主のレストランを紹介する。個性的だからこそ、無難ではないワインを合わせてその真価を知ることができるジビエ料理。ぜひ訪れて、双方が真っ向勝負して初めて実現するダイナミックなアッビナメントを体感してほしい。