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石田博流ワインペアリングの「感性」の磨き方

「石田博流ワインペアリングのすすめ」終了記念 特別インタビュー

好評をいただいていた人気企画「石田博流ペアリンブのすすめ」も第15回でひと区切り。また、装いを変えてペアリング企画はやりたいと思うが、一旦シリーズは終了。連載をしていて感じたことは、石田博流ワインペアリングの自由さと奥深さ。そこには、世界のワインと食に対する豊富な知識と、研ぎ澄まされた感性があった。
そこで、石田氏の発想に少しでも近づくため、今知っておくべきワインの知識、ペアリングに必要な「感性」の磨き方などについて伺った。

マグロと生ハム×ヴァレイジ

豊かな想像力こそが、ワインペアリングの醍醐味なのだ

今の世界のワイントレンドって、どんなものがあるのでしょうか?
日本では、若者のアルコール離れ現象もあり、若い人はあまりワインを飲まないそうです。しかし世界では、ワイントレンドを生み出しているのは、実は若い人たちです。彼らは、これまでの少し堅苦しいワイン文化とは違う、新しいカジュアルにリラックスして楽しむワイン文化を生み出しています。夕日が綺麗だからとベランダやテラスで飲んだり、ピクニックやバーベキューで缶入りワインを楽しんだり、まさに自由。今は白ワインよりもロゼワインの方が売れているのですが、こうしたブームを牽引しているのも若者たちです。

アルコール度数の低い軽いワインが流行っているのも、関係ありますか?
まさに今の若者たちの好みを反映しているのだと思います。気軽にフレンドリーに楽しみたいと思うと、濃いワイン、アルコール度数の高いワインは敬遠されがちです。木樽の香りもあまり好まれません。こうした世界のトレンドは、知っておいた方がいいと思います。そして素直に受け入れる事も大切。日本のワイン文化には、未だにバブルの頃のフレンチやイタリアンのレストランで、少しかしこまって飲むイメージがつきまとっているように思います。そうした昔の常識や価値観に囚われているということも否定できません。ソムリエでさえ、そうした考えのままの人も多い。そうではなく、もっとオープンマインドで、今のワイン文化に向き合う必要があると思います。スクリューキャップだろうが、缶ワインだろうが、まずは受け入れて、味わってそれから判断するべきだと思います。

ワイン初心者が、もっとワインを楽しむためのアドバイスはありますか
ワインに興味を持っていただくこと。そしてソムリエを始めとするワインの先輩を頼ることでしょう。知識がないからワインを頼めない、ソムリエとどう接すればいいのかわからないという声をときどき聞きますが、今はカジュアルに楽しむ時代です。レストランは、失敗しちゃいけない場所ではありません。かしこまる必要もかっこつける必要もない。気軽に話しかけてください。
ただ「なんでもいいんで、オススメをください」などという聞き方には、対応しづらいです。「石田博流ワインペアリングのすすめ」の中でもときどき語りましたが、テーマやストーリーがないとペアリングは面白くなりません。ですから、その日行くレストランのこだわりなどをホームページなどで調べていくことをお勧めします。例えば、私がソムリエをしている「レストランローブ」は世界のワインを揃えていることがこだわりの一つです。それを知っていれば「この店は、世界のワインを揃えているんですってね」などと話し始めることができます。そうすると私は嬉しくなって、「今、こんな国のこんなワインが面白いんですよ」などと話を広げることができます。
お店のこだわり以外でも、自分なりのこだわりがあればそれをテーマに相談してもいいと思います。ビオワイン、日本ワインなど切り口はいろいろあると思いますので。

ワインペアリングの感性を磨くにはどうすればいいのですか?
感性を磨くには、まずは意識することが大切です。たとえば朝家から出た時に、空を見て何か一言を言うようにする。これを毎朝やる。この時、当たり前のことは言わない。私は、夏に「暑い」と言いません。これは感性ではないと思うからです。またネガティブなことも言ってはいけません。ポジティブ発想に徹することが大切です。
たとえばワインに酸味を感じた時、ネガティブな感性の人は顔をしかめるかもしれませんが、ポジティブな感性を持っていれば、それを「青リンゴみたい」と表現することができます。ワインの多様性を楽しむことができるようになります。さまざまな個性を否定するのではなく、面白がれるようになることが大切なのです。
それが、もっと美味しくするために、もっと楽しくするために、というペアリングを考える上で最も大切な感性を育てることにつながります。私はよくペアリングには、料理とワインの相性だけでなく、一緒に楽しむメンバー構成や、シチュエーション、環境などを考えることが大切と言ってきましたが、ここまで語れば、その理由はもうわかっていただけますよね。それこそが、最も大切な感性だということです。

石田さん自身が実践されていることは、何かありますか?
そうですね。普段の食事の時に、この料理に何を足したら美味しくなるかと考えることはよくします。例えば、コンビニで買ったお弁当や惣菜でも、そこに何かをちょい足しするとしたら何がいいか、と考えてみるのです。ゴマをふる、粉チーズをかける、ごま油をかけてみるなど、何でもいいです。これはワインペアリングの発想にとても近い。美味しいなで終わらせるのでなく、もっと美味しくするためのもうひと手間を考えるのです。
私は、機内食でもその遊びを良くします。たとえば、暖かいご飯が出てきたら、パン用のバターをもらってごはんにのせます。溶けたら、注文したスパークリングワインを振ってバターピラフ風にして楽しみます。鶏の蒸し料理が出た時には、トマトジュースとタバスコをもらって、ガスパチョ風にしてみたこともありました。これ、楽しいですよ。おすすめです。

石田流ペアリングの極意の一部を何か教えていただけませんか?
繰り返しになりますが、ペアリングで大切なのは、ワインと料理の相性の前に、その会食のシチュエーションやメンバー、目的などを考慮することです。「ペアリングのすすめ」で何度も言葉にした極意の一つとも言えるのが「ストーリーのあるペアリング」ですが、これは、そうした発想ができるようにならないと、なかなか生まれません。
その感性を鍛えるには、ワインの持ち寄りパーティなどを、テーマを決めて楽しむのがいいと思います。まずは、イタリア、メキシコなどと国をテーマにすると、初心者でもやりやすいかと思います。ワインと料理で旅をした気分にもなれますし、行ったことのある国なら自分の体験を生かすこともできます。
私の経験を話すと、タスマニアに行った時に現地でカキをむいている人たちを見たことがありました。それをヒントに、カキとタスマニアのスパークリングというペアリングを思いついたことがありました。旅行に行った時に見たこと、食べたこと、感じたことは、ペアリングの発想のヒントになるのです。ですから、海外に行ったら、ぜひ現地のものを食べ、現地の人と交流し、好奇心旺盛に体験をしてほしいと思います。そうした姿勢がペアリングの感性を豊かにしていくのですから。

旅行はもちろん、普段の食事、生活を積極的に楽しむことが大切ということですね。
ポジティブである事、自由である事、好奇心旺盛である事、そんな事が大切なのかもしれません。いわゆる「相性」だけにとらわれずに、自由に発想することでペアリングは面白くなります。自身の体験から生まれる発想は、ストーリーを生み出します。どうしてこう合わせたの? ということを語れるストーリーは、体験談があれば、ぐんと説得力が増しますからね。
あなたの体験を語る事で、そのペアリングを楽しんだ人は、あなたの感動を追体験できるわけです。海外で見た美しい風景を思い浮かべて選んだペアリングは、相手もその風景を思い浮かべるはずです。そしていつかその場所に行った時に、思い浮かべた風景と同じものがあったとしたら、それはそれは感動的です。ペアリングにはそんな感動を作り出せる力があるのです。そう、想像力の力こそが、ペアリングの醍醐味なのだと思います。


石田博氏

 

石田博プロフィール

合同会社Soupless代表、レストランローブ ソムリエ、社団法人日本ソムリエ協会 副会長。
1969年生まれ。数々の国内ソムリエコンクールを優勝。2000年には、第10回世界最優秀ソムリエコンクール第3位。2011年 厚生労働省 現代の名工、2014年11月 内閣府 黄綬褒章受章。同年 第7回全日本最優秀ソムリエコンクール優勝。2015年アジア・オセアニア 最優秀ソムリエコンクール優勝。2016年第15回世界最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト。

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