転がしているようで転がされて
シャンパーニュ自体の二面性といえば、ストイックで緻密なワイン造りという一方で、世界の艶と華やかさを一手に引き受けるパーティアイテムでもあること。17世紀、雪のオーヴィレール修道院と華やかなマダム・ポンパドゥールの世界から受け継がれた求道と華麗の二面性。純真と魔性といってもいい。
橋本さんも日なたのテタンジェと夜のテタンジェ、この2つの違う世界を味わった。さて、橋本マナミ自身の二面性とは?
「テレビなどで見てくださっている私のイメージって、セクシーで男の人を扱うのがうまくて、男性に対して嘘もうまくて、ですよね。いつも落ち着いた感じで、おじさんを転がすのも上手で(笑)」
そうそう、と力強く頷いてしまうのも仕方がないだろう。
「確かに表ではそうやっているんですけど、実際はちょっと違うんですよ。っていっても、聞く耳もっていただけないですよねぇ」
一応聞いてみよう。
「ふだんはセクシーでもなく、話し方もお仕事のために勉強して研究した声。ふだんはキャピキャピしすぎ。もともとがそういう感じなので、転がしてそうでしょうけれど、転がされてばかりで(苦笑)。好意も素直に伝えられないし、届かない。えーと、純粋っていうんですか(笑)」
純粋というワードには同意しづらいと失礼なことを言いかけて、質問を変える。では最近、転がしているようで転がされて、純粋な乙女的な橋本マナミとしてコントロールを失っている場面は?
「ありますね。もう好きになってしまうと駆け引きとか、操るとかできない。直球。まっすぐ向かっていくだけです。向かっていくといっても、たぶんちゃんと伝えられてないんだろうなぁ」
また、少しさびしい表情。確かに、うまくいっているなら延々と涙ぐましいガールズトークをする必要もない。そこにシャンパーニュがあるといい。オンナ同士で元気をもらい笑顔になる1本。男性との距離を少し縮められる、勇気のための1本。
ロゼを口に含み、ゆっくり喉に滑らせる。ふぅっと吐息から広がるロゼの香りを楽しみ、また場面を思い浮かべる。
「はじまりにいいですよね。もし、その日、その人と恋が始まるならば、最初に乾杯したのがこれだったよねって、あとから振り返りたい」
2人で食事に出かける時点で少なからず好意はある。そこでうまくいかなくてもいいけれど、うまくいった時にその日を振り返ったら、そこに、あの日、飲んだ、少し勇気をもらったシャンパーニュがあった。
「恋のはじまりから思い出になるお酒じゃないかな」
人気と活躍と裏腹に、自分だけの時間はどんどん失っていく。でも、それでもいい。仕事に打ち込む自分はやっぱり自分。17時を告げる銀座の鐘の音がなる。ネオンの光が橋本さんとグラスをより強く、多彩に照らす。
「ロゼ、時間の経過で少し甘く感じられるようになってきました。あぁ、いい時間だなぁ」
もし、今、横に誰かがいれば、肩にもたれかかる瞬間かもしれない。
楽しくなったり、優しくなれたり、元気をもらったり、トキメキの力になったり。2つの顔の橋本マナミに、いつでも、シャンパーニュは愛を注ぎ込む。