まばゆい朝の光の中で、カメラと向き合う彼女
初夏を思わせる五月の日。まばゆい朝の光の中で、カメラと向き合う彼女を見ていた。ナチュラルな表情は爽やかで、だけど絶対的な色香を漂わせているというか、なんというか。率直に言えば、これは同性が最も憧れるヘルシーな色気、あるいは艶というものか。
「午前中からなんだかすみません(笑)。でも、同じ女性にそう感じていただけるのは、正直、とても嬉しいです。なにしろ、プライベートでは色気とは無縁! 本当に毎日バタバタしているので」
野波麻帆さんの日々は忙しい。女優として映画やドラマに出演しながら、母としてまだ幼い2人の女の子を育てている。この日も早朝から子供たちのお弁当を作り、幼稚園に送り届け、それから撮影場所へとやって来た。
「確かに忙しくはあるんですけど、自分の毎日の中でいろんなスイッチを切り替えていくのが面白いんです。要するに、やりたいことがあり過ぎるんですよね」
ああ、なんていう不良ママでしょうか
洋服好きが高じて、かつてはスタイリストとしても活動していた麻帆さん。今回の撮影のためのスタイリングも自身の手によるものだ。
2016年には、旦那さまである俳優の水上剣星さんと共に、子供服ブランド「himher」を立ち上げている。
「自分で着るものは、可能な限り自分で選びたいんですよね。事前に撮影のテーマを聞いて、それに合った服を探しに行くのも楽しくて。私は母の影響で子供の頃から服が好きだったんですが、どうやらそれは娘たちにも受け継がれているみたいです。上の子なんて、もう私の選んだものを着てくれないんですよ(笑)」
女優、妻、母、スタイリスト、デザイナー。さらに彼女は、周りの多くの人にとっての、気の置けない飲み友達でもある。聞けば、かなりいけるクチだとか。
「私はなぜか忙しいときほど元気なんですよね。なんとか時間を見つけては友達に会って、時には朝まで飲んじゃいます。うちは夫婦どちらの実家も東京都内で、孫を喜んで迎えてくれるので、それに甘えて二人で飲みに行くことも。朝、半分酔った状態で子供たちのお弁当を作ることもあったりして……ああ、なんていう不良ママでしょうか(笑)」
こよなく愛するのはシャンパン。本日ご用意した、シャルドネ種のみで作られた「ブラン・ド・ブラン」もお気に入りだ。
「すごく美味しいです。軽やかで飲みやすい! 家でも、特にこの時期になってくるとシュワッとしたお酒が飲みたくなりますね。基本は白ワインで、最近はヴァン・ナチュールが気になっています。オレンジワインも好きで、見つけると買っちゃいますね。主人も私も午前中で撮影が終わったりすると、ワインを飲みながら一緒に夕食を作ったりするんですよ。子供たちに“また飲んでる!!”なんて言われながら」
そんなときの夫婦の会話は、やはり子供たちの話題に行き着くという。
「主人とよく話すのは、いつか娘たちと一緒にお酒を飲みたいねって。でも時々は夫婦2人だけで飲みに出かけて、車で迎えに来てもらいたいよねって(笑)」
家族の話をすると、カメラの前に立ったときのセクシーさは影を潜め、麻帆さんはとても柔和な表情を見せる。彼女の人生のあらゆる面で、愛する人たちの存在は当然ながらとても大きく作用している。
実はだいぶおっちょこちょいで、子供たちによく叱られる
「結婚と出産は、私の人生にとてもプラスになったと思います。もともと結婚願望もあまりなかったですし、自分が子供を持つことも想像できなかったのに、実際そうなってみるといいものだなぁって。仕事に対しても以前より意識が高まった気がしますね。若いときは考え込むことも多かったんですが、今はその時間がもったいない。だから一つひとつのお仕事にぐっと集中できるようになったんです」
取材時は、テレビ東京系ドラマ「スパイラル~町工場の奇跡~」に出演中。先天性の難病を抱える幼い娘の母親役だ。
「こんなにしっかりとお母さん役をやらせていただくのは、役者人生で初めてかもしれません。というのも、演技の土台になるものが私生活の中から滲み出ているんだなということを、初めて実感しながら撮影に臨んでいるからです。私が現実に母親じゃなかったら、全然違う演技になったかもしれないなって」
地に足をつけて、何気ない日常を慈しみ、人生を楽しんでよく笑う。麻帆さんを見ていると、『自然体』というのはこういうことだと思えてくる。ただいま39歳。ほどよく、オトナ。
「私は32歳で結婚したので、20代と30代はやはり大きく違いました。そういう意味では、40代は今の延長にあるのかなと思っているんですよね。ただ、このまま40歳になっていいのだろうかとドキドキしてもいるんです。私、実はだいぶおっちょこちょいで、子供たちによく叱られる母親なんですよ。お店のトイレのサンダルを履いたまま家に帰ってしまったり、車を停めれば必ずと言っていいほど駐車券をなくしたり。最近では上の子がすかさず私の手から駐車券を取って、自分のカバンに入れておいてくれるんです。そう思うと、子供たちがしっかりしてくれるなら、案外このままでいいのかもしれませんけど(笑)」
そして彼女は席を立ち、「これから幼稚園にお迎えに行ってきます」と、そう言って笑った。それはまるで、太陽みたいな笑顔だった。