ロマン・デュリスじゃないけれど
『猫が行方不明』や『スパニッシュ・アパートメント』で有名な映画監督、セドリック・クラピッシュの4年ぶりの新作は、ブルゴーニュのワイン造りの現場で繰り広げられる人間模様を描く。
ブルゴーニュで一級(プルミエ・クリュ)をふくむ、いくつかの畑を持つワイナリーに生まれた、ジャン、ジュリエット、ジェレミーの三兄弟は、ワインメーカーである父親に、幼い頃からワインを教え込まれた。けれど長男のジャンは家族との折り合いがよくなくて家を出て、10年、音信不通になってしまう。実は世界中でワイン造りの経験を積んで、いまはオーストラリアで自分のワイナリーをやっていることが後からわかるのだけれど、そのジャンが、ブルゴーニュの実家へ帰ってくるところから物語ははじまる。帰還の理由は、父親の具合がよくないから。
それからいろいろあって、結局、三兄弟は父のワイナリーと畑を引き継ぐことになるのだけれど、きちんと引き継ぐためには、多額の相続税を支払う必要があることが判明する。でも三人には、それを払えるほどの経済力がない。かれらの畑を欲しがる人はたくさんいるから、一部だけでも手放せば、それは高く売れて、それで問題は解決する。三人にとっては、それがもっとも合理的な選択だ。けれども、代々つづくワイン造りの一族の末裔には、生まれ育った家も畑も、一部でも手放す、という決断ができない。
その場合、三人は経営者だから、別のソリューションを出すのが合理的にはやるべきことのはずだ。ところが、三人はこの問題をここで未解決のまま保留してワインを造りはじめる。すでに実家と縁を切っていて、さっさとこの問題を片付けてオーストラリアに帰らなくてはいけないはずのジャンまでが、解答をださないままブルゴーニュに残る。それで、それまででも充分にややこしかったジャンの個人的な問題が、そしてジュリエット、ジェレミーの家庭や生活の問題が、さらにややこしくなる。
そういう面倒事が映画のメインストーリーなのだけれど、三人は、毎日、畑仕事をしている。しかもビオディナミでやっている面倒くさそうな畑だ。ブドウができれば収穫をいつにするか議論し、仕込みの最中には除梗のパーセンテージで揉める。ワインができたら、にこにこその出来栄えについての感想を語り合う。
そんなことをしていたって、かれらの問題は何も解決しないはずなのに、かれらにとっては、それが、結局、ソリューションになってしまう。
合理的じゃない。でも、人生ってそんな感じかもしれない。そして、ブルゴーニュのワイン造りが途絶えない理由も、理屈では説明できない、日々の営みのなかにあるのかもしれない。